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トキは神原の家を伺ってみた。車庫に車はなかったので、おばさんはまだ帰ってきてないのだろう。
隣の家から出て来た影とぶつかりそうになった。
「あれ?佐久本?」
隣の家の恩田も神原と一緒の小学校の同級生だった。
神原老人のことを聞く。
「俺もボケてると思わなかったけど、大峰神社の桜が切られるって話聞いてから、元気なかったよ」
そう、その大峰神社だ。大きな桜の木があるのだ。
「あの桜、切られちゃうの?」
ここ数年花が咲かなくなったのだそうだ。樹齢が五百年とかで、樹木医にも診てもらい、いろいろと手当てしたが駄目だったという。もう寿命だそうだ。
礼を言って、少し離れたところにいたアサギを手招きした。
「急ごう」
走り出したふたりを見送った恩田の目がうらやましげだった。みんな、アサギの見た目にだまされる。
大峰神社は、駅の反対側にあり、本殿や社務所は小高い丘の上にある。本殿の裏に『美束の桜』というエドヒガンの古樹があった。枝が四方に張り出して、かなり広がっているので、春満開になると、それは見事な『さくらさくら』の世界になる。
ふたりが神社に着いたときは、すでに日が暮れていた。本殿への階段を駈け上がった。
「あっちだよ!」
その方向にぼうっと白く浮び上がる樹の影があった。
トキが戸惑った。アサギが右のこぶしを握り締めた。
「やな感じだ。ひょっとすると…」
そういえば、なんかぞくぞくする。
ああ、まさか、こんな神も仏も逃げ出した都会に?逆に神仏が守ってくれないから、百鬼夜行はあり?
トキの足が止まった。気付いたアサギががっとトキの腕を掴んだ。
「ぐすぐすしない!」
やだよ!
最近心の悲鳴が増えた。
本殿横の玉砂利をざくざく通っていく。大きな木が見えてきた。幹のあたりにうずくまる人影があった。
「あ、神原さん」
アサギがトキの手を離して駆け寄った。確かに神原のおじいさんだ。アサギに抱き起こされて、気がついた。
「アサギさん?」
「だめですよ、家の人に黙って出てきては。みんな心配してますよ」
神原老人は弱々しく首を振った。
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