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「トキ!早く神原さんを!」
振り向いた。アサギが巫女さんの格好で立っていた。
「アサギちゃん?」
神原老人を抱えるようにしてアサギの後ろまで下がった。
「どうやって、ここへ?それに、そのかっこ…」
わざわざ着替えてきたのか?しかもアサギは手に懐剣を握っていた。草深の神社に伝わるあの神剣だ。
「キッキがここへの『入口』を開けてくれた」
「そんなの持ち出して…」
神官である伯父のアカシにばれたら、どうするんだ。
「これはどうせわたしとおまえしか使えない」
えっ?どういうことだ?
などと考えている暇はなかった。ムシが後ろの足で立ち上がった。
「シューッ!」
こっちに向かってくる!口針を伸ばしてきた。
「キッキ!こっちへおいで!」
アサギに呼ばれてキッキが走ってくる。そのキッキをムシが前の足ではたいた。
「キーッ!」
鋭い爪がキッキの皮をえぐった。キッキが倒れてふるふると震えた。えぐられたところから樹液が染み出ている。人間で言えば血が滲んでいるということだ。
アサギが、懐剣を逆手に持った。
「生玉 死反玉 足玉 道反玉 布留部由良と由良加之奉る事の由縁を以て神通神妙神力加持顕わし給へ」
アサギが祝詞を唱えると、ムシの動きが止まった。トキに怒鳴った。
「キッキを助けて!」
トキが足を引きずりながらキッキのところへたどりつく。抱き上げようとした。
「シューーーーーッッッッッ!」
ムシが胸や腹の気門から腐臭のする息を吹き出した。
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