第1章「一年目の春」

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 春。それは出会いと別れの季節。入学、入社だけではなく、誰の中にも在る些細な人と人との出会い、そして別れの予言。「集団」としての営みを続ける限り、我々人間は出会いと別れの宿命から逃れることはできない。たとえ、あなたがどんなに強く願おうとも、あなたが出会った人間との別れは、いつか必ず訪れる。別れは、あなたの命が尽きるその時まであなたの隙を伺い続けている。繰り返すが、人に出会いと別れは付き物だ。そして、この物語の主人公、彼ら(彼と彼の親友となる人物)にも、出会いと別れの輪廻は逃れられないものであった。もし、彼らが出会わなかったら等と考えてはならない。運命はいつ、どんなときも、皆に等しく平等に降りかかるものだから。  僕には、小学校以来の友人が幾らかいるが、その中でも特に仲のいい子を一人選べと言われたら、僕は躊躇することなく「彼レ」を選ぶだろう。ここでは便宜上「彼レ」と表記する。誤字ではない。「彼レ」とは、いつから話始めるようになったかは今でも覚えていないが、今でも花が落ちる頃、桜の木の下で1人佇む「彼レ」の姿に不思議な感覚を覚えたことは今でも覚えてる。当時、僕たち小学1年生にできる遊びなんて、せいぜい校庭で鬼ごっこやかくれんぼしたり、遊具の竹馬で遊ぶことくらいだった。サッカーゴールやバスケットゴールは上級生が使うものだというのが暗黙の了解であった。そんな校庭の中、1人、誰と話すでもなく、1人で、舞い散る桜の花の中、1本の桜の木を見上げていたのだった。その視線は、ほとんど散ってしまった桜の花ではなく、もっと遠いところを見つめているようだった。  夏休みになると、私はいつも「彼レ」と共に学校近くの山を2人で登りに行った。といっても、その山というのは、20~30mほどのちょっとした丘に木がたくさん生えているだけの小さな山だったが、夏休みには学校では見られない貴重な虫が見られるため、小学男児にとっては夏休みの宿題に代わる、格好の学び舎であったのだ。僕は、「彼レ」と、時には他の友達も集めて、夏休み中遊びつくした。その時の「彼レ」の顔は、入学当初に見たものとは比べ物にならないほど、笑顔であふれていたと思う。  秋になると、「彼レ」が家に遊びに来るようになった。2人別々のゲーム機で遊んだり、時には通信機能で一緒に遊んだりした。この頃は、僕はこの時間が永遠に続くのだと思っていた。
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