第二章 玄夢

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第二章 玄夢

1  漆黒の森の中の小径を、一歩一歩確かめるようにゆっくりと進んでゆく。  星々の光が、覆い茂る木々の葉の隙間から、微かに漏れ落ちる。  しばらく歩くと、やがて小川にたどり着いた。  三島源太郎は、水の中を覗き込む。  川面に映るのは、疲れ果て、やつれた男の顔……ではなかった。  子供でもなく、大人にもなりきれていない、どこか幼さの残る顔。  ただひたすらに夢を追いかけて頃の姿にも似ている。  忘れかけていた甘酸っぱさが、胸の中を駆け巡る。  源太郎は、両手で水をすくうと、自分の顔に浴びせかけた。  冷たさが、顔から、頭の先、そして全身へと広がる。  再び川面に目をやると、そこには、疲れた表情の男が戻ってきていた。 「俺は……どうすればいい……」  源太郎は、水面の自分に問いかける。だが、答えは帰ってこない。 「ああああああああ!!」  突如としてあげられた叫び声が、辺りの湿った空気に響き渡る。  心の中にたまった澱を、体外へ放出するかのように。  そして叫びは、闇へ溶け込んでゆく。  やがて森は、何事もなかったかのように、静けさを取り戻す。  源太郎の荒れ果てた心を、優しく包み込むように。
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