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翌日は昨日の嵐がまるで嘘だったかのように穏やかな晴天となった。 僕は朝から気が気じゃなかった。 いきなりあんなことをしてしまうなんてきっと僕はどうかしていたんだ。佐久間に会ってちゃんと謝らなければ。 そう思っていたのに、その日彼女は姿を現さなかった。放課後いつもと同様に美術室で待っていたが彼女は現れず、教室に残っていた彼女のクラスメイトに聞いてみると今日は休みだという。 昨日の嵐で風邪でも引いたのだろうかと思っていたが、翌日もさらに翌日も、彼女は学校を休み続けた。 これは完全に僕の責任ではないだろうか。 僕は彼女の連絡先も知らなければ家も知らない。思い返せば僕らの関係は美術室という閉鎖空間の中だけの繋がりでしかなかったのだ。 分かり合えただなんてなんという思い上がりだろう。僕は自分が恥ずかしく思えてならなかった。 そこで、せめてもの罪滅ぼしに僕は彼女を探すことにした。 幸いにも僕らは私立校ではなかったので学区の中という範囲に絞ることができた。 公園に、河川敷に、団地に、ありとあらゆる場所に彼女の姿を重ねた。 思い浮かべるたびにあの日の口付けが、そしてその後の何とも形容し難い彼女の表情が、脳裏をちらつき僕の胸を締め付けた。 散々歩き回り、すっかり日も暮れた頃、僕は最後の望みをかけて美術室の扉を開けた。するとそこには探し求めた彼女の姿があった。 「佐久間!」 僕が名前を呼ぶと彼女は心底驚いた顔で振り向いた。 「なんでここに君がいるんだい?」 彼女の声は震えていた。 動揺を押し殺して話をしているかのようだった。 「僕は君に会いたくて探していた。」 彼女の頬を涙が伝い落ちていった。
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