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青山とは高校一年の時同じクラスになってから、
特にきっかけがあったわけじゃないけれど、
気がつくといつも一緒にいた。
帰る方向もたまたま最寄り駅がひとつ違うくらいだったので、部活が終わる時間が合えば大体一緒に帰っていた 。
ちなみに俺はサッカー部、青山はバスケ部だ。
大学も、同じところに行こうと約束したわけでもないのに、
たまたま同じところが受かった。
学部は違うけど。
「工学部…だっけ?授業ってどんなの?面白い?」
「まぁ、それなりに」
青山は口数が少ない。質問には答えるが、果たして答えになってるのか…ってときも多々ある。
が、俺は気にならなかった。
二人でいてもずっと無言のときも多いが、
別に気まずくはなかった。
周囲には俺は明るくノリのいいキャラで通ってはいるが、実は大人数で騒いだりするのがそんなに好きな訳ではない。
だから、こいつと二人でいるときの無言の空間は、むしろ心地よくて好きだった。
話したいときに話せばいいし、聞いて欲しいと思ったことはちゃんと目を見て聞いてくれる。
青山はいつも、俺の言葉をひとつひとつ丁寧に拾ってくれるから、何気ない会話でさえとても大事に思えた。
「ねぇ、秀」
「んー?」
「呼んでみただけ」
「?そっか」
何気ないやりとり。
だけど、口数の少ないこいつが用事もないのに呼びかけるなんて珍しいな。
何か言いたいことでもあるんだろうか。
そう思ったが、顔を見てもいつも通りの無表情だったので、何も聞かないことにした。
まぁこいつに名前を呼ばれるのは、嫌いじゃないし。
「零」
「なぁに?」
「別に。呼んでみただけ」
ちょっとした仕返しだ。
見上げなきゃ表情はちゃんと分からないけど、
何となく、青山が笑った気がした。
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