この空の下で、キミへ

5/5
前へ
/15ページ
次へ
「一応、さ。お前に言われた事も、よく考えたんだぜ。女に恥かかせないって意味とかさ。和美と付き合おうかって思ったりもしたけど。……出来なかった」 「えっ」  付き合ってるんじゃ……ないんスか。 「卒業式の数日前には、和美に伝えて。……泣かせちまったよ」  肩を竦めた先輩に、心臓が、バクバクと音を立てる。  そして卒業式の後の和美さんを思い出した。  先輩から言われた後だったのに、あんな風に先輩と笑ってたのだ。 「……いい女ッスね、和美さん」 「まぁなー」  先輩も、そう言って少し笑う。  その瞳は今、和美さんを映しているに違いない。 「……なぁ。――触れていい?」  先輩が、首を傾げるようにして訊いてくる。  あらためて問われても困る。  声を出せないでいると、クスリと笑った先輩の手が伸びてきた。  首の後ろに手が触れて、引き寄せられる。  俺の、唇に。――先輩の唇が触れて、顔を覗き込まれた。 「今日は、突き飛ばさないんだなー? 優樹?」  顔を真っ赤にしてる俺を見て、ニヤニヤと笑ってる先輩に「ウッセ、バカ」と返す。  キスされて。初めて名前で呼ばれて。  照れないヤツがいたら、見てみてーよ。 「俺も、していいッスか。……キス」  一瞬。  キョトンとした先輩が、ニヤリと笑う。 「ドーゾ?」  先輩の腕を掴んで、先輩の額に口付ける。  前髪に、ずっと嫉妬してた。  触れたいと、ずっと思ってた。  その額に触れられて、嬉しく思う。  ――それなのに。 「オコチャマー」  クスクスと笑う先輩を、シバいてやりたい……。  ――なんで俺、あんたを好きなんスかねッ!
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加