15人が本棚に入れています
本棚に追加
「一応、さ。お前に言われた事も、よく考えたんだぜ。女に恥かかせないって意味とかさ。和美と付き合おうかって思ったりもしたけど。……出来なかった」
「えっ」
付き合ってるんじゃ……ないんスか。
「卒業式の数日前には、和美に伝えて。……泣かせちまったよ」
肩を竦めた先輩に、心臓が、バクバクと音を立てる。
そして卒業式の後の和美さんを思い出した。
先輩から言われた後だったのに、あんな風に先輩と笑ってたのだ。
「……いい女ッスね、和美さん」
「まぁなー」
先輩も、そう言って少し笑う。
その瞳は今、和美さんを映しているに違いない。
「……なぁ。――触れていい?」
先輩が、首を傾げるようにして訊いてくる。
あらためて問われても困る。
声を出せないでいると、クスリと笑った先輩の手が伸びてきた。
首の後ろに手が触れて、引き寄せられる。
俺の、唇に。――先輩の唇が触れて、顔を覗き込まれた。
「今日は、突き飛ばさないんだなー? 優樹?」
顔を真っ赤にしてる俺を見て、ニヤニヤと笑ってる先輩に「ウッセ、バカ」と返す。
キスされて。初めて名前で呼ばれて。
照れないヤツがいたら、見てみてーよ。
「俺も、していいッスか。……キス」
一瞬。
キョトンとした先輩が、ニヤリと笑う。
「ドーゾ?」
先輩の腕を掴んで、先輩の額に口付ける。
前髪に、ずっと嫉妬してた。
触れたいと、ずっと思ってた。
その額に触れられて、嬉しく思う。
――それなのに。
「オコチャマー」
クスクスと笑う先輩を、シバいてやりたい……。
――なんで俺、あんたを好きなんスかねッ!
最初のコメントを投稿しよう!