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風が吹いて、先輩の前髪を揺らす。
額で踊る様子に、「払ってやりてぇなー」と思った。
「俺さー」
瞼を閉じたままで、先輩が口を開く。
目を向けて、しばらくその言葉の先を待つ。
けど、いつまで待っても続けないので、聞き間違いかと視線を逸らそうとした瞬間、先輩が目を開けた。
起き上がると、膝に肘を置いて頬杖をつく。
「……お前は知ってるかもしれないけど。和美がチョコ渡したいって言った時、最初は屋上に呼ばれたんだよ」
「はぁ」
もちろん知ってる。
そん時先輩は、「寒いから」って嫌がったんだ。
「俺、それ断ってさー。何でだろって後から考えたよ。寒ィのなんて、いつもの事だし」
「はぁ。……まぁ、そうッスね」
「お前――だったんだよなぁ。頭の隅に浮かんでたの。……お前に見られたくねぇって、思ってたんだ」
「は?」
俺? と思っていると、先輩がまっすぐ俺を見つめた。
「お前と屋上で別れた後だったけどな、気づいたの。お前の前では、渡されたくなかった。――和美のでも。他の娘のでも」
「………………」
先輩から、目を逸らせられない。
そして先輩も、俺から少しも目を逸らさなかった。
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