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「で? どうだったよ? 渡せたのか? 好きなヤツにチョコレート」
「…………フラれたッス。もうグロッキーってくらい……」
笑って言ったのに。
冗談にまぎれさせた、筈なのに。
一瞬顔をしかめた先輩が、俺の頭を引き寄せた。
「…なぁ。俺じゃ……ダメか? 俺じゃお前を、なぐさめてやれねぇか?」
先輩の肩に顔をうずめた状態で、このまま甘えてしまおうか、なんて弱い俺が思ってしまう。
けれど――。
ドンッ! と、先輩の体を押した。
「おま――」
何すん……と目を剥いた先輩が、泣いてる俺の顔を見て固まる。
「女に恥かかせないって意味、あんたちゃんと判ってんスか。……なぐさめるって、どういう意味で言ってるつもりなんスか」
「お前…………和美の、見てたのか?」
驚いたように言葉を落とした先輩が、『和美』と言ったことに、よけいに涙が溢れた。
1度、拳を握ってから、ポケットからチョコの包みを取り出す。
「いらないなら、捨ててほしいッス」
先輩の胸元に、押し付けた。
反射的にチョコを落とさぬよう手を遣った先輩の指先が、俺の手に触れて。
なごり惜しそうに手を震わせた俺は、俯いて、やっとの思いで手を引き剥がした。
先輩の顔も見れずに、駆け出す。
――そしてこれが、卒業してしまう先輩と話した、最後になった。
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