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幼いころ団地に住んでいた。結婚式があるということで団地の通路を見上げる人だかりができている。お嫁さんがもうすぐ出てくるのだ。私は弟の手を引き、人だかりから少し離れたところで待っていた。
紋付き袴を着た男性が二階の通路から大きな声で話しかける。「今からお菓子投げを始めます。」昔のこと。そんな催しは今でもあるのか。
お菓子を取りに行こうと弟と目を合わせ強く手を引いた。大人が混じった人だかりが怖かったのだろう、弟は嫌がった。「僕が二つ取ってくるね。」私はそう言って、人だかりの中に分け入った。
やんややんやの大騒ぎである。見上げる人かがむ人。人にもまれて必死である。自分の分は取れた。いくつかのお菓子が袋詰めされている。もう一つもう一つ。弟の分が必要である。やっとの思いで二つ袋を確保した。達成感とともに弟のもとに戻ろうとした。
弟が地面にお行儀よく座って私を見ている。なぜだろう、弟の隣にもう一人お行儀よく座ってる。弟の友達である。今も忘れない、二人並んで座っているのだ。菓子袋は二つしかない。私の頭は混乱した。
混乱以外何の感情もなかったように思う。手にしていた二つの菓子袋を一つずつ二人に渡した。何かを話しかけたわけではないが、私が不機嫌であることに弟は気づいている。家に帰り、私と弟の様子を見ていた母親が、弟の菓子袋から菓子を取り出し、私たち二人に菓子を選ばせた。
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