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「……シャボン玉」
ここにいると思った。あの子には、他に行くところなんてないはずだから。
ベランダに立つその女の子は、さっきまでの僕みたいに、一人ぼっちで外を見てる。がさがさ震える葉っぱの下で。
危ないなぁ。風があとちょっとでも強くぶつかってきたら、ぼろぼろ壊れていっちゃうのに。
さらさらな髪が流れる背中の後ろ。足音立てないで、僕はゆっくり近づいた。
「りっちゃん」
呼びかけるとすぐ振り返る。吹けば簡単に消えちゃいそうな、ゆらめく影。
「ましろっ……」
弱々しい顔が、真後ろに立つ僕にびっくりしてて。
それ見ると、僕はぞわぞわする。いつもこう。目が合うと、この子は僕をぞわぞわさせる。細い火がゆらゆら踊ってる瞳も、僕の名前を揺らす声も、いつまでも消えないで残るから。
すぐ下を向く暗い顔。茶色くて、長くて、柔らかい髪。きらきらした律とはちっとも似てない、ゆらゆら震えるシャボン玉みたいな女の子。
これが、りっちゃん。本当の名前は“雨谷 理沙”だけど、僕にはずっと、この子は“りっちゃん”。
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