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「外行かないの? 律も、みんなもいるよ」
「ドッジボール、苦手だもん……」
影に覆われた、りっちゃんの暗い声。
走り回るのも、ボール投げるのも、りっちゃんは上手くない。体育の時間も、運動会の日も、ずっとつまんなそうな顔してる。
「ここで、風の音聞いてる方がいい……」
ちっちゃい声をさらうみたいに、怒ってる風が冷たくぶつかってくる。木にも。カーテンにも。教室の中にも。僕にも。りっちゃんにも。
太陽を隠してる葉っぱが、大勢で、ざあざあ叫んだ。ばらばらに狂う。そのせいで、グラウンドで遊ぶみんなの声が、遠くに流れてく。
変なの。こんなのが聞きたいなんて。りっちゃんって変な子だ。
さらさら遊ぶ長い髪。光が当たらないから、薄い影が絡みついてる。きらきら、してない。
「中、入ろ」
僕はりっちゃんの手を引いた。
「寒いでしょ?」
「え? 別に寒くな……」
「ほら、早く」
「う、うん……」
りっちゃんを中に入れて、窓を閉める。
そしたらガラスがガタガタ震えた。さっきのよりも、もっと怒ってる風に叩かれて。
あんな乱暴なのはだめ。あんなの当たったら、りっちゃんはきっと壊れちゃう。そんなの困る。
りっちゃんは、僕の大切な女の子。この世でただ一人、僕のお願いを叶えてくれる、律の半分。
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