2 兄と妹

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 それを言ったのは、もうずっと前のこと。  その日の空は、律の好きな青色で、そこでは雲がのんびり旅をしてて。太陽は、葉っぱとか川とかに細かく散らばって、地面のそばからも、世界をきらきら光らせてた。  顔の横では、バッタがぴょんぴょん。花壇の上には、蝶々がひらひら。木の枝からぱたぱた羽を動かす鳥の名前は、わからない。  草と枝がさわさわ歌うたびに、花の匂いが踊る。鼻がつまっちゃいそうな、でしゃばりな匂いが。  公園の原っぱに寝そべってたら、いろんなものが、ただのんびり通りすぎていって。これっぽっちも、ざわざわしなくて。  幸せとかいうのかな。こういうの。 「いいな。こういうの」  草の歌を簡単に上書きする、まっすぐな声。  僕の顔はすぐ横を向く。  両方の腕を枕にして寝転がった律が、太陽がぶら下がった空を笑顔で見つめてた。 「こうやって外でのんびりすんの、すげー気持ちいいなー。なんか、幸せ」 「幸せ……僕も。おんなじこと考えてた」 「マジで? すげーな、俺ら」  きらきら。律が笑うと、目が痛い。心がぽかぽかする。太陽みたい。でも本物の太陽よりも、まぶしくて、あったかい。  胸にぎっちり詰まってくぽかぽか。この気持ちの名前はわかる。  僕は起き上がった。 「ねぇ。律」 「んー?」 「結婚しようよ」 「は」  僕がそう言うと、こっちを見た律は、口を開けたまま動かなくなった。
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