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それを言ったのは、もうずっと前のこと。
その日の空は、律の好きな青色で、そこでは雲がのんびり旅をしてて。太陽は、葉っぱとか川とかに細かく散らばって、地面のそばからも、世界をきらきら光らせてた。
顔の横では、バッタがぴょんぴょん。花壇の上には、蝶々がひらひら。木の枝からぱたぱた羽を動かす鳥の名前は、わからない。
草と枝がさわさわ歌うたびに、花の匂いが踊る。鼻がつまっちゃいそうな、でしゃばりな匂いが。
公園の原っぱに寝そべってたら、いろんなものが、ただのんびり通りすぎていって。これっぽっちも、ざわざわしなくて。
幸せとかいうのかな。こういうの。
「いいな。こういうの」
草の歌を簡単に上書きする、まっすぐな声。
僕の顔はすぐ横を向く。
両方の腕を枕にして寝転がった律が、太陽がぶら下がった空を笑顔で見つめてた。
「こうやって外でのんびりすんの、すげー気持ちいいなー。なんか、幸せ」
「幸せ……僕も。おんなじこと考えてた」
「マジで? すげーな、俺ら」
きらきら。律が笑うと、目が痛い。心がぽかぽかする。太陽みたい。でも本物の太陽よりも、まぶしくて、あったかい。
胸にぎっちり詰まってくぽかぽか。この気持ちの名前はわかる。
僕は起き上がった。
「ねぇ。律」
「んー?」
「結婚しようよ」
「は」
僕がそう言うと、こっちを見た律は、口を開けたまま動かなくなった。
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