7 太陽とシャボン玉

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 ティーセットをリビングのテーブルに並べ終えた頃に、りっちゃんは戻ってきた。結っていた髪を下ろして。雨の残り香を、消して。 「あ……もう用意してくれたの?」 「砂糖は使わないよね? まだ熱いから、火傷しないように気を付けてね」 「……真白……」  ゆっくり近付いてきたりっちゃんは、うつむきながら、きゅっと僕の服の裾を掴む。 「りっちゃん?」 「ありがとう。いつも……大切にしてくれて」 「……急にどうしたの?」 「別に? なんか今……言いたくなったから」  顔を上げたりっちゃんは、笑う。  笑顔なのに、僕の真ん中に、ズキズキと落ちてきた。  ワガママを言い出したり。かと思ったら、いきなりお礼なんか伝えてきたり。消えそうな顔で、笑ったり。りっちゃんは、訳がわからない。  僕が手を重ねる前に、弱い指は僕の服を離す。 「さっきね、弥生ちゃんからラインきたよ。“急に実習が入っちゃって行けそうにないから、コンサートは三人で行ってきて”って」 「ああ……うん。そのことなら、僕にも律が電話くれたよ。仕方ないから、今日は三人で行こう」 「…………私も、やめとく。行くの」 「は?」  思いがけない言葉に、僕はつい表情を止めた。  泣き止まない空の向こう。また雷が、あてもなく辺りに怒鳴り散らす。 「ちょっと気分悪くなってきちゃったから……律と、二人で行ってきて」  りっちゃんは、また勝手に、ワガママなことを言い出した。いつもと変わらない血色なのに、何考えてるのか全くわからない顔で。
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