幕が降りる夜

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幕が降りる夜

とうとうこの日が来てしまった。 "明石ー!ヒロー!クー! コウジー! Pioneersー! じゃあねー! バイバーイ!!" 仲間の絶叫がラジオから響く。 「…これでよかったんだよな」 誰もいない部屋に虚しく響く自分の声。 ラジオに聞いたって返事は返ってこない。 俺達が築き上げたPioneersは、今日で終わりを迎える。 30年築き上げてきた場所が。 音も無く、ただ静かに幕が降りていく。 ぼんやりその場に立ち尽くしていると、 トントン 少し間を置いた 「お父さん…」 今にも泣きそうな顔で愛娘が部屋の中に入って来た。 「ねぇもうどうにもならないの? 松本くん叫んでたよ…」 堰を切ったように涙がこぼれだす。 「なんでお父さんが悪者みたいになってるの? なんで何も言わないの?? 皆解散したくないでしょ!? なんではっきり言わないの!?」 『玲奈…』 「私達のせいなの…? 私達守るために解散するの?? そんなの私嫌だよ! Pioneers無くなっちゃうの…寂しいよ」 『ごめんな… お父さんのせいで嫌な思いさせてるよな… 学校…大丈夫か? 嫌なこと言われてないか…?』 「………別に平気だよ。 仲良しの子がね… 怒ってくれるの。 何も知らないくせに、人のこと悪く言うなって。 その子Pioneersのこと大好きで、私の家のことも知ってるけど、お父さんのこと何も聞いてこないの。 そういうところすごく好きなの」 涙でグシャグシャの顔が少し笑顔になる。 『…そういう友達大切にするんだぞ。 一生の友達なんて早々できるもんじゃないからな』   「お父さんいっぱいいるじゃん… 4人も」 いたずらっぽい笑顔でこちらを見ている。 俺はこの笑顔を守ると決めたんだ。 今は2つは守れない。 前に進むしかない。 たとえそれがイバラの道でも。 今日失ってしまった、もう1つの守るべきもののためにも。   前に進むしかないんだ。
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