出口の見えない約束

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出口の見えない約束

これは夢だ。 胸クソ悪い、夢なんだ。 目が覚めればいつも通り。 いつもの仕事が俺を待っていて。 いつものメンバーが待っている。 いつもの日常。 『松本さん!』 マネージャーの声ではっと目を覚ます。 『着きましたよ。15時から収録です。』 「ん」 ぼんやりする頭で返事をすると、重たい身体を引きずりながら車から降りようとする。 『…大丈夫ですか? うなされてました。』 無表情で聞いてくるその言葉には、何ら心配する気持ちが伝わってこない。 「…大丈夫なわけねーだろ。イラつくこと聞くなよ」 聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声でボソッとつぶやく。 『今日はこのあとラジオがありますんで、また収録終わり頃迎えにきます』 そのマネージャーは特に表情を変えることなくそう言うと、あっという間に車を走らせて行ってしまった。 「はぁ…」 ひとつため息をつくと、テレビ局の中に入って行った。 下を向きながら廊下を歩いてると、 『まっちゃん、久しぶりじゃない?? どうよ、1人になって! まぁでもグループの時もソロの仕事多かったし、あんまり変わんないか!』 ガハハと古株のプロデューサーが話しかけてくる。 何処が変わらないのか。 変わらないものとは何なのか。 …何もかも変わってしまったのに。 俺の何より大事にしてたものは無くなってしまったのに。 そうですね、と愛想笑いをしながら早々と楽屋にこもった。 煩わしい。 もう放っておいてほしい。 触れないでほしい。 無神経にその傷に触られると、またどうしようもない喪失感におそわれる。 何で守れなかったのか。 どこで間違ったのか。 あの時こうしていれば、こんな結末にはならなかったんじゃないか。 もう二度と元には戻せないんじゃないかと。
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