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明けていく夜
「松本さん、それ持って帰ってくれませんか?
すごい量着てるんですよ」
マネージャーが無表情で、後ろの座席から2つばかりダンボールを抱えてくる。
中を開けてみると、山ほど手紙が入っていた。
どうやらファンレターのようだった。
「これでもまだごく一部です。
事務所に置いておくスペースがなくなってきたので、お願いします」
事務所は俺達のスペースなんかもう与えたくないということか。
…全くムカつく対応だぜ。
『じゃ運べよ』
そっけなく言うと、そのままダンボールを抱え、ドアの前までついてくる。
玄関にダンボールを下ろすと、何故かその場に突っ立ったまま動かない。
『何だよ、まだ何か用か?』
少し苛立ちをみせながら、そのマネージャーに話しかける。
「…読んでください」
その顔はいつもの無表情とは違う表情だった。
感情を必死におさえてるかのような、でも今にも泣きそうな顔。
『はぁ?』
どういうことだと問いただす前に、そそくさと玄関から出て行ってしまった。
『何なんだ、アイツ…』
視線を落とすとダンボールの山が目に入る。
リビングにそれを運び、焼酎の水割りを作り始めた。
カランカラン…
氷とグラスのぶつかる音だけが、虚しく部屋の中に響く。
ただぼんやりと目の前にあるダンボールを見つめながら、作った焼酎を口に流し込んだ。
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