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日垣は突然、美紗の一番深い所で動きを止めた。
組み敷いた細い身体が、わずかに身じろぎ、呻くように悶える。そこからゆっくりと離れた日垣は、肩で大きく息を吐き、ベッド脇のサイドテーブルを見やった。
内閣官房で支給された携帯端末が、低く無粋な物音をたてていた。
「日垣です……」
直前の行為を全く感じさせない声が応答する。液晶画面のバックライトが、暗がりの中に引き締まった裸体を浮かび上がらせた。
美紗は微かに声をもらし、唇を噛んだ。身体の中に残る強烈な快感が、息を詰まらせ、鼓動の音を際立たせる。
「……分かりました。すぐに向かいます。今回の呼集範囲は……」
電話の相手と二、三のやり取りをした日垣は、通話を終えると、まだ熱を帯びたままの美紗の身体に上掛けを静かに掛けた。そして自身は、床に落ちていたバスローブを手に取り、部屋の入口に近い所にあるバスルームの中へ入っていった。
ドアの隙間から漏れ出る白熱灯の光が、心地よい暗闇を鋭く切り裂く。
水の流れる音と身支度を整える物音を、美紗はぼんやりと聞いた。痺れたように脱力していた手足の感覚がようやく元に戻った頃には、日垣はチャコールグレーの背広を着こみ、ネクタイを締めていた。
「N国関連で何かあったらしい。補室(内閣官房副長官補室)の安保関係の人間は全員呼び出しだそうだ」
美紗は、虚ろな目で日垣を見上げた。喉がカラカラに乾いて、声が出ない。
日垣はベッドの傍に身をかがめると、乱れた黒髪をゆっくりと撫でた。
「君は朝になるまでここで休んでいればいい。フロントに鍵を返すだけでいいようにしておくから」
「で、も……」
「防衛マターだから市ヶ谷でも何らかの動きがあるだろうが、幹部でない君が真夜中に呼ばれることはないはずだ」
日垣は、上掛けの上から美紗を強く抱きしめた。そして、悲しげな唇にそっと口づけると、灯りの無い部屋から足早に出ていった。
いつの間にか、気を失うように眠っていた。
ふと目を開けた美紗は、ベッドに横たわったまま、シティホテルの無機質な室内を見回した。独りだけの暗い空間は、異様に静かだった。
ぐったりと重い身体を起こすと、下腹部がつきんと痛んだ。
上掛けの上に置かれていたナイトウェアが目に入る。美紗はそれで体を包み、ベッド脇の高窓に歩み寄った。遮光カーテンを少しずらすと、眩しい日の光が部屋の中に入ってきた。
眼下に見える幹線道路には、車がほとんど走っていない。
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