2人が本棚に入れています
本棚に追加
少女は、月が照らす雲一つ無い空を見上げていた。
田舎町であるこの酒匂川町では、夜になれば月と星々も煌びやかに光り輝く姿が見える。
少女はコートを羽織っており、制服姿なのにも関わらず、どこか大人びた印象を与える。
そして、たった1人で夜の境内のベンチに座っており、悲しげに空を見上げていた。
光り輝く星とは対照的に曇った表情をしている。
溜息と同時に白い吐息が漏れた。
少女の名前は奈麗(なうら)。
今は12月終わりの冬休み。今年で高校三年生となる。
彼女の表情を曇らせるのは決っして受験シーズンだからなわけではない。
奈麗はK大学へと推薦入学も決まっており、ほかの受験メンバーの生徒達に比べれば余裕があった。
奈麗にとって、夜の境内のベンチからこの夜空を眺める事が日課となっていた。
こじんまりとした廃境内で、ベンチと錆び付いた社殿、があるのみだった。
時刻はとっくに22時を過ぎているというのに帰る気配を見せない。
ふと幼い頃の記憶を辿る。
(思えば私のこれまでの人生は、全てがこの夜の闇のように暗く、果てのない迷路の中を生きていた。
最初のコメントを投稿しよう!