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(助けて……)
すると突如、頭をポンポンと触れる感覚がして、奈麗は思わず顔を上げた。
美しい青年が優しい眼差しで奈麗を見下ろしていたのだ。
奈麗よりも遥かに黒い髪に紫の瞳が印象的で、服装はどこか品のある和装を着こなしており、紺色の着物に羽織を着ている。
少女の漆黒の長い髪が風でふわりと揺れた。
突然の見ず知らずの存在の出現に驚き、思わず奈麗は身を引いた。
それも構わず青年は微笑んで、自身の手を引くと境内を軽く見回した。
「ここの社はすでに信仰も廃れたただの古い建造物でしかない。
人々の邪な願いという念だけが渦巻いており、神主もおらず、神霊も降りることが叶わぬ場所だ。
ここではない、------神社においで。奈麗。」
「え…?」
するとその眉目秀麗な青年は奈麗に再び微笑むと、スタスタと立ち去ってしまうのだった。
ふと気がつけば、救いを求めていた霊達の声も消えていた。
辺りを見回しても何も感じない。
ただの優しい風がふわりと吹き、寒さの厳しい夜にもかかわらず澄んだあたたかい空気が広がっているのを感じられた。
奈麗はなんとなく、また空を見上げる。
シリウスの星座を見つけた。
一番光り輝くあの星を…。
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