眠らせて

5/9

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「どうだった? ハサミの効果は!」  翌日の昼、麻衣が興味津々な表情で尋ねてくる。 「あー……うん」  言い淀む私に、琴美ちゃんが無表情のまま言った。 「効果ありませんでしたか?」 「うん……」  昨日も同じだった。何度も何度も繰り返し起きる夢。今度こそ、ちゃんと起きた。そう思うのに、しばらくしてまだ夢の中だと気づく。消えたと思っていた気配は消えておらず、自分がベッドの中で横になってるのをうっすら意識した途端、覗き込む気配を感じてしまう。その気配の性別は分からない。ただなんとなく女性かなって思うだけ。 「そうですか……」  琴美ちゃんが顎を指で擦り、どうしたものかと思案顔になる。 「あれじゃない? ほら! マリッジブルーってやつ。結婚式まであと二ヶ月だし!」  麻衣が閃いた! って表情で箸をブンブン振る。 「えー? そうかなぁ。別にブルーにはなってないと思うけど……」  幼馴染の彼、アキラとはもう十年の付き合いになる。高校時代から付き合ってるし、人柄もアキラの家族のこともよく知ってる。同じ町内だし、互いの家族も顔見知り。不安はハッキリ言ってなにも無い。強いて言えば、他の人と付き合ったことがないから、本当にアキラに決めていいの? という気持ちが多少あることくらい。でも、アキラほど穏やかで、器の広い人はいないんじゃないかなって思う。喧嘩らしい喧嘩もしたことが無いのは、絶対アキラの性格がいいからだ。私はどっちかっていうとせっかちだし、直ぐにワタワタしちゃう。そんな私を「大丈夫だよー」と笑って宥めてくれるアキラに今まで何度も惚れ直してる。  カッコイイとか、お金持ちとか、そういうのは求めてない。だからやっぱりアキラがいいって思う。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加