眠らせて

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 その日の夜もあの現象はやってきた。  地鳴りのような音が迫ってきて、それが大勢の人の呻き声じゃないかと思った瞬間、身体が動かなくなる。肌の表面がチリチリして、近づいてくる圧からは怒りを感じた。何を言っているのか分からない。ただ怒りをぶつけられていることは分かる。  怖い。この人は怖い。  起きなきゃっ!  必死で指を動かす。足で布団を蹴り上げた瞬間、全身がビクンと痙攣した。うっすら目を開けると暗い部屋。 「はぁ……」  私は起き上がり、額の汗を拭った。手のひらがべったりと濡れる。 ……いつもよりもっと怖かった。     「ふわぁ……」  いつものメンバーでお弁当を広げてると大きなあくびが出た。ずっと熟睡できない日が続いてる。もう夢を見たくない。朝まで爆睡したい。 「千春先輩」  琴美ちゃんが白い布に包んだモノを差し出した。手のひらより少し大きなモノ。 「これは?」 「ハサミです。私の私物ですが、お塩で清めてあります。包んだ状態のまま、枕の下へいれてみてください」  琴美ちゃんはそっち方面に強そうだし、効きそう。 「ありがとう! 早速今日の夜試してみるね!」  琴美ちゃんは頷き、大きな黒目を左右に動かしてから躊躇いがちに口を開いた。 「それと……」 「他にも対処法があるの?」  琴美ちゃんが私の目をジッと見た。 「怖いと思うのですが、夢の中で目を開けて見てください」 「見るの?」 「マジで? それ超怖くない?」  チキン南蛮を頬張っていた麻衣が私の気持ちを代弁する。 「怖いと思います。でも、頑張って恐怖の正体を見極めてください。このハサミで断ち切れたらいいのですが。もし、今晩も夢を見るようなら」
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