2人が本棚に入れています
本棚に追加
敷地内は驚くほど静かだった。闇に包まれた木々が風によって葉を揺らす音だけが取り残され、他には何も感じられない。人の気配も、何もだ。
それもそのはずで、研究施設に辿りつくまでの間に、いくつもの死体が智孝達を迎え入れていたのだ。
生物兵器にやられたのか、体には何かに引き裂かれたような傷痕や、獣に喰いちぎられたような痕もあった。
諫美や有羽は初めて見る景色に恐怖を募らせる。胸やけや悪寒が起こり、その感覚にも顔を歪ませた。零れそうになるショックの声を必死に呑み込んでいる。
その人の道を素通りすると、研究所の入口はあった。報告通り、出入りが容易で電気も通っているようだ。
「しかし……静かだな」
自分の声が妙に響いた。
既にMARSは生物兵器を捕獲したのだろうか? 建物の内部の構造も目標物もわからず、こんな闇夜の中、自分達が到着する3~40分程度で?
全滅してしまったのかと思うほどの静寂に、智孝を始め、字守達は生物兵器ではない敵の存在を危惧する。
悲鳴も銃声も何一つ耳に届かず、もう起き上がることのない人達が、無言のまま自分たちを出迎えた──
最初のコメントを投稿しよう!