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「それにしても酷いですね。本当に俺達が来る少し前に襲われたんでしょうか?」
実春が傍らに寝転がっている人を見つめながら、誰ともなく質問を投げた。それに遼太朗が答える。
「傷口の状態から見ても、ちょっと怪しいけどな。まあ、それよりも問題は、ここでやられてるってことは、生物兵器が中にいる可能性が高いってことだね」
「また外に出ていればいいんだけど」と付け足したが、ここに来るまでの状況を考えればそれは明白なことだった。
智孝は出入口付近にあった建物の簡略図を時計に内蔵されている端末に取り込み、字守たちに転送する。受け取った字守たちはテスト生へと送った。
その間、生物兵器がいるかもしれないことを注意し、潜入を開始する。
担当場所である3階に階段で向かう間にも沈黙の人間とすれ違うと思いきや、今度はぱたりと姿を現さなかった。今度こそ本当に人の気配も何もない。
調べる部屋の一つ一つにも人がいた痕跡もなく、不気味なほどにひっそりとしていた。
「あの傷痕って、人がやったんじゃないよね?」
不意に有羽が不安を口にした。鋭い4本爪で切り裂かれたような傷を見てだろう。しかし、獣独特の匂いがしない。人の可能性も低いが、動物にしてはという矛盾が多過ぎた。そんな会話の中で、諫美がぽつりと漏らす「何で生物兵器なんか作ったんだろう?」と。
「ま、どーでもいいけど、自分達が作ったものにやられるなんて皮肉なもんだね」
「──あれ?」
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