第二章 シュートチャンス

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そんな分析をぼんやりとしている桜井を尻目に、他のメンバーはコート中を駆け巡っていた。エース3人から繰り出されるパス回しやそのカットに追いつくことが出来ず、“ボールばっか追わない!”の声がしばしば飛んでいた。中でも、体の後方を経由してボールを持ちかえる“バックビハインド”という技をもつ金やんは、バスケになど興味のない桜井でさえ魅了し、瞬く間にゴールを決めた。小学生時代にバスケ部に所属していた彼女は、学年でもたった1人しか出来ない技をいくつか持っていた。球技大会本番、その華麗なボール捌きで敵を欺いていく彼女は、いつも憧れの的だった。 と、突然、“桜井!!”という声とともに、ボールが飛んできた。見ると、デンジャーがゴール目前でブロックされ、パスを回してきたのだった。左サイドのゴール下で、デンジャーの位置からパスするとなれば…なるほど、私しかいなかったのだろう。 しかし…… 目の前に存在するボールを、どのように動かしたらいいのか分からなかった。この距離からならば、シュートするべきなのだろうか。いや、今まで一度もゴール経験がない私のこと、それは無駄打ちになるだろう。ならばもう一度パスを…と思い、桜井は味方を探した。すぐにのんちゃんと教授が上がって来てくれて、“助かった”と思った矢先だった。 「桜井!打って!」 デンジャーが叫んだ。 “え?打つの……?” 桜井は、1ミリも動くことが出来ずに呆然としてしまった。自分にボールが回ってきたこともさることながら、“シュートしろ”と言われていることに驚いた。みんなとは違う。これは、当たり前のことではない。たかが練習試合…しかもただの紅白にも関わらず、“私にゴールを任された”という新事実で頭がいっぱいになった。 だが、そうこうしている間にも、試合は瞬く間に進行する。     
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