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第四章 富士山の見える窓
講堂に続く赤い絨毯を突っ切ったところに、彼女はいた。考え事をしている時は、ここから富士山を眺めるのが常だった。ズボンのポケットに手を突っ込み、くたびれたように壁によりかかっている姿が、なかなか画になっている。桜井が“あの…”と声を掛けると、屈託のない笑顔が返ってきた。やんちゃそうな物言いや、同意を求めるように何かと肩を叩いてくる癖は、昔から変わらない。物静かで読書しか興味のないような桜井が一緒に歩いていると、すれ違う人々が珍しそうに振り返る視線を感じた。無理もない。
中1の球技大会を境に、彼女は“デンジャー”と呼ばれるようになった。その異名は、隣のクラスだった桜井どころか、彼女と全く接点のない先輩の耳にも入るほどであった。どんな試合をしたのかは知らない。ただ、“当時の中3を恐怖させた怪物”とだけ聞いていた。
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