第四章 富士山の見える窓

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オレンジの温かい照明に照らされた校舎を通り過ぎ、小さな階段を下りていく。伝統ある洋風木造建築の校舎は、じめじめとした雨が空を曇らせている時でさえ、どこかほっとする雰囲気を醸し出していた。すれ違った少女たちが“こんにちは”と挨拶しては、嬉しそうに廊下を駆け抜けていく。遠ざかる後ろ姿に、桜井は昔の自分を重ねていた。途端に、“あんたはどうしてここにいるの?”という声が聞こえてきた。“まただ…”と思い、彼女は首を振った。抑えたくても抑えきれない、騒ぎ出した人影。エコーのようにざわついて離れない、こびりついた台詞。どうしてそんなに昔のことを思い出してしまうのか分からないが、ふとした瞬間にこみ上げてくるのだから仕方がない。胸の奥を締め付けるような息苦しさは、6年経った今でも氷解することなく、桜井の奥底に眠っていた。 小学6年生の春、受験組で仲の良かったグループが、突然桜井に牙をむいた。西日が突き刺さるオレンジの校庭の先で、異様に黒く映し出されていたあの日の校舎を、今でも忘れない。その子の後ろに見えた無数の影法師は、ゆらゆらと揺れて笑っていた。 “いなくなればいいのに。” ………………………………。 あれから、次々と降り注いできたガラスの破片は、心の隅にしまって蓋をしてきた。もう、爆発されては困る。ゆるやかな放物線を描きながら散らばったそいつらは、落ちる瞬間に急激に速度を増すからだ。そしてその矛先は、いつしか相手から自分に変わり、ある日桜井を攻撃してきた。 “中学に入っても、どうして変われないの?” “ねぇ、聞いてる?” “一生無理よ” “昔からだから” “能力の問題” “そんなことないわ” “言われる方が悪いのよ” “努力不足” “出来ないものは出来ない” “いなくなればいいのに。”     
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