第零章 START

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隣の中三は、鬼気迫る表情で“オ―――!!”と叫び、小さな私たちを威嚇している。ロープをまたぎ、次々とコート入りしていく先輩たち。そこかしこから拍手喝采と声援を浴び、辺りは異様な一体感に包まれていた。自分たちの応援席と歩廊の一角で身を小さくしている中一も、まちまちに“がんばれー”と団扇を振る。その声援は、間違っても私たちの背中を押せるほどの威力はなかった。白石は、こちらの世界に集中した。円陣によって作り出された暗闇に顔をうずめると、心臓が飛び出しそうなくらい緊張しているのが伝わって来る。白石自身も、この先足が動くかどうか不安だった。金本が言う。 「初めての球技大会、ここまで来れたのは、みんなのおかげです。だから、勝ち負けとか関係なく、楽しんで来て下さい。」 このような状況にも関わらず、立派なご挨拶の出来る我らのリーダー。 「中一C――、いくぞ――!」 未発達の小さな体で、あらん限りの声を出す。それに応えようと、必死に叫ぶメンバーたち。が、細い喉から繰り出されたそれは、どんなに頑張っても中三のようには―――― 「うぅぅぅおおぉぉぉああああ―――――――――――!!!!!!!!!!!」 その時、後方で轟音がして、白石は思わず隣人を強く握りしめた。中一風情が一生懸命に叫んだ声が、いとも簡単にかき消されていく。隣のベンチもざわつきだした。今さっきセットした鬣(たてがみ)を揺らしながら、センターラインに進んでいくライオン。呆然とするメンバーをよそに、金本は“藤垣?”と言ってニヤリと笑った。 「ゼッケンつけないでどうすんのよ!!」     
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