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第五章 黒い怪物
「私をよく見ろ!どこが空いてる。パスを出すとしたら、どこに出す!」
終始熱をもって接してくるデンジャーに、桜井はただただ圧倒されていた。最も小規模な紅白試合でさえ、彼女と正対したことは無い。大きな彼女と対峙することは、自分のポリシーに反していた。“三十六計逃げるに如かず”、“目の前に、壁が出来たらすぐ逃げる”―――これらが桜井の標語だった。デンジャーの先にいる千葉ちゃんにパスを回せばよいだけなのだが、十分前から一向に進展していない。ボールを持ったまま二秒止まっては、“遅い!”の連続だった。すでにチェストパスを五十、アンダーハンドを百周するという謎の三桁メニューをこなした後、歩廊を三周している。約一キロも走ったということだ。フラつきながら階段を降り、膝に手を置いてしゃがみ込むと、“時間がないからやろう”と言われた。続いて千葉ちゃんはシュートの練習をしていたけれど、桜井は狙った場所に投球する練習をひたすらさせられた。先ほどのパス練習でも桜井は暴投を繰り返し、他
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