12人が本棚に入れています
本棚に追加
割れんばかりの爆音と同時に、構えていた金本が走った。彼女を追いかけてくる中三と火花を散らしながら、寸での差でそのボールをキャッチする。次々と陣地に上がって来る中三を妨害する藤垣の一味と、金本を援護する白石。意地でも繋がらければならない、冒頭一発目。ヨーヨーのように吸い付くボールを巧みに操る金本は、相手を惹きつけてはかわし、追いつかれては逃がれ、右へ左へと翻弄した。パスをしている暇はない。考えている時間もない。一気にゴール下まで持ち込んだ。案の定、読んでいた中三に囲まれる。この時ばかりは、迷わずバックビハインドを繰り出した。何度練習しても慣れない不意打ちのパスに、白石は一瞬たじろぎながらも両手を伸ばす。敵がこちらに向かってくる。金本から注意がそれた一瞬の隙をついて、すぐさま彼女にアンダーハンドを送った。身長に自信のない白石だからこそ出せる、絶妙な低い高さのパスだった。強く跳ね上がったボールが
、金本の手中にすっぽりと収まる。“しまった!!”とばかりに身を翻す中三。シュートを繰り出す金本。ハイタッチの準備をする白石と、身を乗り出す応援席。固唾をのんで、時が止まる。
が、無念にもクルクルとリングを回ったボールは、私たちを裏切って、反対側に落ちていった。
……………………………………。
中一全土に絶望が走る。
……………………………………。
その瞬間、待機していた藤垣が、再び空を飛んだ。中三も負けじと舞い上がる。眼前に伸びてくる青白い腕。すぐさま黄色のゼッケンが見えてきて、藤垣の視界を覆い始めた。かろうじて見えていた、ゴールネットを囲む四角形の枠組み。“着地なんかしたら、カットされてしまう”―――頂点に達してゼロGを感じた時、藤垣は、空中でシュートを打つと決めた。左右の手を少しだけずらし、すぐさまボールを送り出す。これが冒頭最後のチャンス。
“あの枠組みの…角に当たれば……。”
立ちはだかる中三のせいで、ボールの行方が見えなくなった。スローモーションのようにゴールから離れていく、自分の身体。
“音がない。音が聞こえない。枠組みの……音が………!”
最初のコメントを投稿しよう!