第零章 START

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藤垣は目をつむった。柔らかい空気のクッションが、徐々に引いていくのを感じる。地面は近い。 “まだか、まだかまだかまだか……まだ―――――――。” 次の瞬間、肘頭から強い衝撃が走り、バランスを崩して倒れ込んだ。かけぬけた痛みが全身に広がって、途端に時が動き出す。 その一球は、“シュッ”という気持ちのいい音を響かせて、ネットの中に吸い込まれていった――――――。 爆発した応援席が、一気に体育館を埋め尽くす。鳴り止まない歓声と、響き渡る応援歌。熱風を巻き込んで拡散していく、私たちの上昇気流。間髪入れずにエンドラインからパスを回そうとする中三をよそに、白石は藤垣に飛びついた。すぐさまディフェンスに回るクールな金本と、大スターのように人差し指を上げた藤垣。 以来白石は、あの時の恍惚を伝説と呼ぶ。 その景色は、十三年の人生の中で最も美しく、最も忘れられない瞬間であった。 「この三人がもう一度一緒になったら――――次は絶対に、優勝しよう。」
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