母の桜

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今年も庭の桜が見事に咲いた。 近所でも有名な桜で、道行く人も足を止めてしまうほどだ。 父は桜を見上げ「秋には切ってしまうか」とポツリと言った。 この桜は5年前に事故で亡くなった母が、嫁いできた記念に父と植えたものだ。 私は止めてとは言えずに俯いていた。 冬になる前にあの人がくるのだ。 仕方がないという思いで父の顔を見る。 父は少し困った顔でなにも言わず出掛けてしまった。 「お母さん、本当にいいの?」 私は満開の桜の木の下でそっと聞いてみた。 一瞬、花の風がびゅっと吹き桜の花を少しだけ散らせた。
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