二人なら

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「おかしいですね……俺達は国道を車で走っていたはず……」  だが車は無い。それに。 「植生が日本の物じゃない……というか見た事も無い植物がちらほら……」  熱帯性にも見えるが、微妙に違う。 「ひなみを守る者ならば何事にも対応出来る能力が必須だ! レッツ、サバイバル!」  という旦那様の鶴の一声で、ある時は南米のジャングルに、またある時はアフリカのサバンナに、護身用ナイフと水筒一つだけを持たされて自家用セスナ機からパラシュートダイブさせられた事が何度かあるが、そこで見た物とも違う。  余談だが、ナイフはバターナイフだったし水筒は子供用でしかもピンクのウサギのキャラクターが描かれたモノだった。  お嬢のモノかと期待したが消えかけたマジックで書かれていた名前は執事の孫娘のモノだった。  執念で舞い戻り、執事にはキャメルクラッチをお見舞いしてやった。期待を裏切られた恨みは深い。  おっと、思考が逸れた。 「ユーリ、ユーリにもわからない?」  お嬢を不安がらせるなど護衛係として、あってはならない事だ。  俺はお嬢を安心させる様に軽く微笑む。  それだけで瞳から不安が消えるのだから堪らない。  この全幅の信頼に何としても応えねば! 「そうですね、今はまだ何とも。ですがお嬢、大丈夫ですよ。何があっても俺が貴女を守りますから」 「えぇ、そうよね! ユーリがいてくれるんだもの! 絶対に大丈夫に決まってるわ!」  あぁ、愛おしい。  何と素直で純粋で清らかで愛らしいのだろうか。 「ユーリさえいれば、私、何も怖くないわ」 「えぇ。俺もお嬢さえいてくだされば何も恐れるモノはありません。貴女を失う事だけが俺にとって唯一の恐怖ですから」 「ユーリ……ユーリ!」 「お嬢」  胸の中に飛び込んできたお嬢を抱きとめ、その背中を軽く撫でてから、そっと離す。 「またユーリの『内なる獣』が暴れそうなのね?」 「えぇ。申し訳ありません」 「きゃ、怖い」  そう言ってはいるが、軽く微笑み、瞳は何かを期待する様に熱く潤んでいる。  俺を惑わす魅惑の妖精。  そんな半分蕩けた頭が急速に覚醒する。  草を掻き分ける『がさり』という音が耳に届いたからだった。
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