二人なら

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「お嬢、ゆっくり下がって……そして俺の理性が自制出来る距離を保ちつつ、俺から決して離れないでください」 「絶妙に微妙で複雑に難しい距離感ね……でもわかったわ」  さすが、お嬢。ぎりぎりを見事に見切ってますね。  その間にも、がさり、がさり、と草を踏み、掻き分ける音が近付いてくる。  俺が軽く腕を振ると袖口から特殊警棒が滑り出た。  護衛たる者、護身具は常に隠し持っている。  いつ銃弾の盾になってもいい様に着ている服も特殊繊維で出来た防弾・防刃性に優れたモノだ。  だが、ここは見知らぬ地。  何が出てくるかはわからない。  月の輪熊や猪くらいまでなら素手でもイケるが……ヒグマやグリズリー、鰐なんかだと特殊警棒でも危なっかしい。  だがホオジロザメはいないだろうし、いざとなったら俺が囮になっている隙にお嬢だけでも逃げてもらえればいい。 「ユーリ、絶対に怪我なんかしないでね? 私をずっと守ってくれなきゃ嫌よ?」  やはりお嬢は素晴らしい。  俺の覚悟を見抜き、それを阻止する術を熟知しておられるのだから。 「はい、お嬢」  これで俺は死ねなくなった。怪我の一つすら許されない。  だが、それでいいのだ。 「大丈夫ですよ。俺はお嬢を悲しませる事は絶対にしません。独りになんてさせませんから安心してください」 「えぇ。信じてるわ、ユーリ。いつか私の夢を叶えてくれるって約束したでしょう?」  お嬢の夢。『幸せな花嫁』。 「貴方がいなくなったら、私は誰のお嫁さんになったらいいのかしら?」 「絶対に叶えます……その夢!」  他の誰かのモノになんか絶対にさせやしない!  絶対に死んで堪るか!  一際大きく、がさり、と音がして、目の前の茂みを掻き分けて出て来たのは……トカゲ? 「イグアナ……にしてもデカい。それに、この色……」  毒々しいまでに紅く、所々に黒い染みの様な斑模様。  大概、この手のタイプは毒持ちだ。  さすがに手持ちの応急キットに解毒剤は無い。  俺の背筋に冷たい汗が伝った。
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