二人なら

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 俺は大抵の毒には耐性がある。  護衛として毒見は当然だからだ。  だが、コイツがもし毒を持っていたとして、俺の抗体が適用されるかどうか。  何せ見た事も無い生き物なのだから。  紅いトカゲは警戒する様にちろちろと身体と同じく紅い舌を出している。  ちろちろと揺れる様はまるで炎が燃えている様な錯覚を覚えさせる。  のそり、とソイツが動いた。  俺は警棒を振り、シャキン!と音を立てて伸ばす。  本当は縮めたままの方が打撃力は強いのだが、迂闊に近付くのは危険が高い。  次の瞬間、見た目にそぐわないスピードでソイツが突進してきた。  避けようとして思い止まる。  俺の後ろにはお嬢がいる!  お嬢は深窓の令嬢。  夏などは避暑地でテニスなどを嗜む事はある、が。  まぁ、その……何と言うか、所作が万事、優雅なのだ。  全ての動きがワンテンポ優雅なのだ。  決して遅いとかズレてるとかではない。  あくまでも優雅なのだと俺は主張したい。  そんな優雅なお嬢である。  この紅いトカゲは確実にお嬢にぶつかるだろう。  トカゲの分際で俺のお嬢に軽々しく触れようなどと思い上がりも甚だしい。万死に値する。  俺は足元に喰らいつこうとした紅いトカゲの顎を上から踵で踏みつけた。  途端に足元から立ち上る煙と臭い。  靴裏のゴムの焼ける臭気が鼻をついた。  俺は飛び退り、お嬢の横に着地する。 「申し訳ありません、お嬢。これで鼻と口を覆ってください」  ハンカチを取り出し、お嬢に渡す。  お嬢のお気に入りの薔薇の香りを染み込ませたハンカチ。  そして再度、お嬢に同じだけ距離を取って下がってもらう。  ちらりと確認すると靴の踵が溶けていた。  足音をさせない為に厚いゴムだったからいいものの、普通の革靴だったら今頃は踵が剥き出し、ヘタしたら火傷くらいしていたかもしれない。 「やれやれ。これでは歩きにくくて仕方ない」 「いつでも肩を貸すわよ、ユーリ?」  俺の姫君は半分どころか全てが優しさで出来ているのだろうか。 「ダメですよ。そんな事をされたら、そのまま抱き締めて押し倒してしまいかねません」  肩を貸すという事は俺がお嬢の肩を抱く形になる。  そんな事になったら俺は確実にその肩を引き寄せ、お嬢を俺の腕の中に閉じ込めてしまうだろう。  そして、強く抱き締め、柔らかく潰れる双丘が……いかん、血が滾りそうだ。主に下半身に。
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