二人なら

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 慌てて意識を紅いトカゲに戻す。  危なかった。清らかな乙女であるお嬢を俺の妄想で穢してしまう所だった。 「やだ、そんな……ユーリったら大胆……」  あぁ、そんな扇情的な腰の動きで俺を惑わさないでください、お嬢。  俺は今度は反対の足で紅いトカゲを踏み、踵の高さを調整した。  とんとん、と足元を確かめて不具合が無い事を確認する。 「これでよし」  お嬢が眉を下げている。  お嬢を危険に晒す訳にはいかないんですよ。  わかってください。  この場合、何よりも危険度が高いのが俺である事は言うまでもないだろう。 「おっと!」  ぐわっと口を開けて紅いトカゲが迫る。  思ったよりも口がデカい。まさか喉元まで口が裂けるとは。  薄気味悪い生き物だ。  咄嗟に警棒で鼻っ柱を叩いたのだが。 「くぅッ!」  硬い。金属を叩いた様な衝撃が腕を伝い、びりびりと痺れが走った。 「な……警棒が……?!」  強化チタン合金製の特殊警棒が……折れた、だと……!  根元近くからへし折れた特殊警棒。  例え伸縮性と軽量化がされているとはいえ、折れる事はありえない……はずだったのに。  何なんだコレは。  一体全体、何がどうなってるんだ?  そんな疑問は紅いトカゲによって問答無用で蹴散らされた。  そうだ。今は考えてる場合なんかじゃない。  お嬢を守らなければ。 「ユーリー! 頑張ってー! ファイトー! いっぱぁーつ!」  よし、帰ったらお嬢に俗っぽい言葉を吹き込んだヤツには制裁を下そう。  その為には何が何でもコイツを倒さなくては。 「きゃ! やだ、私ったら『一発』だなんてはしたないわ……ユーリに軽べ」 「しません! する訳がありません! ですが二度と口にしてはいけませんよ、お嬢!」 「はぁい!」  お嬢の口から『一発』だなんて、俺の理性が吹き飛ぶかと思ったじゃないか!  一発どころか二発三発、いや、三日三晩だって一週間だって足りないくらいなのに!  俺はお嬢の夢を叶える男だ。  俺の手で『幸せな花嫁』にするのだ。  純白のウェディングドレスは天使を女神へと変えるに違いない。  そうだ、やはりバージンロードを歩くならバージンでなくては。  となると計画を見直す必要があるな。  二十歳の誕生日を迎えたらホテルのスイートルームをと考えていたが、やはり名実共に『初夜』を迎えるべきだろう。  俺の脳がフル稼働する。
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