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さて、無事にトカゲを倒せた訳だが。
「ユーリ……」
「どうぞ、お嬢様。この葉と一緒にお召し上がりくださいね」
「でも、ユーリ」
「味見はしたので問題無いです」
「お客様を放って食事はどうかと思うのだけれど」
お嬢様の食事の管理も俺の仕事であり、喜びである。
「対応は俺がしますから、お嬢様はお食事をなさってください」
「こう見られていると食べにくいわ」
「では、速やかに終わらせてまいりますね」
そこでようやく俺は来客に目を向ける。
「お待たせしました。ご用件は?」
にっこりと営業スマイルを向けた先には仏頂面。
「剣を突きつけられても飯の用意か。肝が据わってるのか阿呆なのかどっちだ?」
「単なる優先順位ですよ。それで? ご用件は?」
「ここで何をしている?」
「見ての通り、お嬢様にお食事を」
「そうじゃねぇ!」
「食事中ですのでお静かに」
「お前ら何者だ? どうやって、この森の中まで来やがった? アレはお前がやったのか? 答えろ!」
やれやれ。せっかくのディナータイムだというのに無粋なオッサンだ。
「あちらで優雅にお食事をされてるのは主家のご令嬢で俺はその護衛の従者です。気がついたら、この森で倒れてました。あとアレを倒したのは確かに俺ですね」
アレとは例の紅トカゲである。
「フレアリザードと言えばBランク指定の危険生物だぞ! それを一人で倒した挙句に食うとか……!」
「他にめぼしい食料がありませんでしたから」
「だからって食うか、普通!」
「お嬢様を空腹にする訳にはいきません」
きゅるる……という小さなお腹の音はまるで妖精の笛の音の様な可愛さだったし、恥ずかしがるお嬢の愛らしさといったら天下一品の極上品ではあったが、愛らしさよりも申し訳無さの方が勝った。圧勝だった。
だが、あいにくと食料は無い。目の前にあるのは倒した紅トカゲ。
お嬢が好き嫌いの無い方で本当によかった。
紅トカゲもお嬢の命の糧となるなら報われるだろう。
心置き無く成仏したに違いない。俺ならする。
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