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それが『何か』はわからない。
だが、俺の本能が『ヤバい』と警鐘を鳴らす。
「お嬢! 外に出てください!」
お嬢もウロボロスに気付いたのだろう。
小さな悲鳴を上げ、シートベルトを外そうとする。
だが、上手く外せないらしく白い手がもどかしく動く。
「ユーリ!」
俺はすぐさま自分のシートベルトを外し、身を乗り出してお嬢のシートベルトを外す。
「早く外へ!」
だが既にウロボロスは至近距離に迫っていた。
輪の中の混沌がフロントガラスいっぱいに映る。
「きゃあああ!」
間に合わない!
俺は咄嗟にお嬢に覆い被さった。
自分の身体でお嬢をシートに押し付ける。
小柄なお嬢の身体は俺の胸の中にすっぽりと収まる。
これならば例えガラスが割れてもルーフが落ちてきてもお嬢にはかからない。
「ユーリ! ダメよ! ユーリ!」
お嬢が俺の拘束を解こうと暴れるが、それを許す訳にはいかない。
「すみません、お嬢。例えお嬢の命令でも、これだけは聞けません」
「だって、だって! ユーリ!」
いやいや、と首を振る度にダイヤモンドよりも輝く雫が散る。
「大丈夫ですよ」
大丈夫、俺が貴女を守るから。
だから、泣かないで、お嬢。
空気が震え、空間が揺らぐのを見ながら、俺はお嬢を抱き締める。
「ユーリ!」
恐怖に耐え切れなくなったのか、お嬢がひしとしがみついてきた。
あぁ。今なら、お嬢の為なら俺は死ねる。
この命を投げ打っても構わない。お嬢が助かるなら。
「お嬢……愛してます」
死を覚悟し、俺は最後にお嬢を強く抱き締めた。
柔らかなお嬢の感触を感じたのを最後に、俺の意識は混沌に呑まれた────。
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