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わざわざ会ったり 電話で話したりすることもなく 一年に一度だけ 短いメールを送る相手がいたのだが ついに今年は宛先不明で 戻ってきてしまった 若い頃なら落ち込んだりもしただろうけど 年にいっぺんだけの どこか不気味な習慣をやっと止められて 心のどこかでほっとしている 出会った頃の彼女とは それほど親しい間柄ではなかった けれど彼女の誕生日だけは 今でも決して忘れない 私は、彼女の誕生日を 「蝉が鳴き出す日」として もう何年もずっと 注意を払って迎えているからだ 子供のころから私は、 「蝉が鳴き出したらほんとうの夏」 という、おかしな自分ルールを もう何年も心の中で決めていて その年は偶然にも 出会った彼女の誕生日だった 私が決めた「蝉の日」の話をすると 彼女は怪訝な顔ひとつせず とても面白がってくれた どうして彼女にだけは 「蝉の日」のことを話す気になったのか 未だによくわからない それ以来、彼女と私はお互いに 誕生日には必ずメールを送りあった いつも、出来る限り短いことばで。 彼女は一昨年 うんと若い男の子に惚れられて結婚した きっと今も幸せに暮らしていると思う 私のことは そろそろ忘れている頃だろう
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