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その時、野々山は女将に言われたことはっと思い出した。夜になると天井を走り回り、部屋に遊びに来るものがいる。それは―― 「座敷童……なのか?」 天井から響いていた音がピタッと止んだ。「せいかーい」とあの男の声がする。 「滅多に人に姿を見せたりなんかしないんだけどねー。じゃあ改めて、君の名前教えて」 人好きのする笑顔で男は野々山の返事を待っている。 確かに何かを変えたくてこの旅館には来たものの、まさか座敷童と出会うなんて思わなかった。その座敷童が大学生相応の外見で、全力で口説いてくるとは予想の斜め上を突き抜けている。 動揺が抜けきらないまま「野々山佐知……です」と名前を告げると「さち! 名前までかわいい!」と座敷童ががばっと飛びついてきた。あまりの勢いにそのまま背中から畳に倒れ、後頭部を打ちつける。さほど痛みはなかったが、気絶したフリで目を閉じた。
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