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ささやかなケーキを買って帰宅した野々山が目にしたのは、高校生ぐらいだろう若い男を連れ込んでリビングのソファでだらける志島の姿だった。志島(しじま)は若い男の膝枕から起き上がりながらおかえりと言って、野々山の手から駅地下のケーキショップの袋を取り上げる。「今日、なんの日だっけ?」と早速ケーキを食べようとしている志島に答える気力も失せた。 今日は野々山の21歳の誕生日だった。 高校から付き合い始め、大学進学と同時に志島とは同棲をはじめた。何度も浮気され、その度に別れてやると息巻いてきたが、それでもどうしても別れられなかった。はじめて好きになり、想いが通じた相手だったからだ。 志島と過ごした日々や、紡いできた想いが、今まさに猛スピードで色あせていく。 恋心の終わりは、案外あっけないものだった。 仲睦まじくケーキを食べさせあっている志島と若い男に背を向けて、野々山は部屋を出た。二人で暮らす部屋にはもういたくない。かといって、どこに行けばいいかもわからない。 とぼとぼと最寄り駅まで歩いてきたところで、岩手の魅力再発見と書かれたポスターを目にした。座敷童の住む地、とも書いてある。ポスターには座敷童の出る旅館が何件か記載されていた。 もしも、座敷童に会えれば、何か変わるかもしれない。 今までオカルトの類に縋ったことはなかったが、何故か直感的にそう思った。 神様、仏様、座敷童様。どうか、浮気をしない男との出会いをください。できれば顔のいい男だとなお嬉しい、なんて少し図々しいだろうか。 ふらふらと何かに吸い寄せられるように券売機に並び、気づいたときにはもう旅館に予約の電話を入れた後だった。
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