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一人きりの部屋で、野々山は布団に寝転がってみた。当然ながら何の気配もしない。古びた壁かけ時計が時を刻むこちこちという音だけが耳に届く。志島の声や気配がない夜は久しぶりで、最初は少し落ち着かなかったが、段々と静けさにも慣れてくる。 野々山はごろりと寝返りを打って、頭の下に枕を敷いた。五時間近く電車に揺られたせいもあって、身体のいたるところに疲れがたまっている気がする。 このまま少し寝てしまおう。 食事の支度をしなくても、風呂に湯をためなくても、今日は誰に文句を言われる心配もない。 ジーンズの尻ポケットに入っていたスマホの電源を切り、なるべく遠くへ追しやる。誰にも邪魔をされずに眠る準備を整えて、座布団を枕に目を閉じた。 自分で思っていた以上に疲れていたのか、すぐに眠気が襲ってくる。 じんわりと温かくなる足の先に、不意に何かが触れた。畳の上に放り投げたボディバッグに、足の爪先でも触れたのだろうか。そんな呑気な考えは、あっという間に吹き飛んだ。 「ひ……っ」 足首からふくらはぎ、太ももをたどるように『何か』が動いている。天井に張り付いていたムカデでも落ちてきたのかと、野々山は閉じたばかりの目を勢いよく開いた。 「やばい、超タイプ。ねえ、どこから来たの? 何歳? 今、恋人とかいる?」 「……は?」 「うわ、声もかわいい。あ、そうだ名前、名前教えてよ。呪ったりしないから」 ぽかんと口を開けた野々山を見て、目の前の男がふにゃりと頬をゆるめた。 つい先ほどまで一人きりだった部屋に、見知らぬ男がいる。それも白い装束の男だ。見るからに怪しい。 野々山は布団から身体を起こして、フロントへ電話をしようとした。フロントへは1番をと聞いていたので、その通りにボタンをプッシュする。かからない。ボタンを繰り返しプッシュする。試しに他のボタンを押してみても、何の反応もなかった。 「な、何で」 「ちょっと話そうよー二人きりにしたんだしさー」 二人きりにした、という男の言い方が気になって、受話器を置いて恐る恐る振り返った。 「やーっとこっち見てくれた!」 にこにこしながら男が野々山に飛びつく。人懐こい犬のようなフレンドリーさだったが、何をされるかわからない恐怖で身が竦んだ。 「もしかして俺が何かわからない?」
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