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暗闇の中からたくちゃんの声が聞こえた。真っ暗なせいか。酷く硬い声だった。
「たくちゃん? 電気つけないと」
「ちょっとそのまま聞いて」
私の左手が何かに掴まれている。たくちゃんしか居ないはずだが、真っ暗闇のせいかほんの少しだけ怖い。
「実乃、あのさ」
ぬくぬくあったか三種の神器が揃っているはずなのに、左手だけ何故か冷たい。ひんやりとした感覚が指をすり抜けていく。
「……たくちゃん?」
その瞬間、ぱっと灯りがついた。眩しくて目を瞬かせる。たくちゃんを探すと、私に背を向けて電気のスイッチとお見合いしていた。
「たくちゃん?」
「ひ、ひひひ、左手」
「ひ、ひひひ、左手?」
「左手、見ろ」
左手、と言われて視線を移す。
すると、そこには。
誕生日プレゼントには相応しくない指輪。
「ぎゃーー! なにこれー!」
ひとしきり騒いだ私に、たくちゃんはしっかりと言葉をくれた。あまりにも嬉しくて号泣してしまった私の口に、たくちゃん特製のチーズケーキが押し込まれた。
甘くて美味しいはずのチーズケーキが、ほんのちょっぴりしょっぱかった。
「来年からは一緒にチーズケーキ作ろうな」
「……だぐぢゃぁぁあんんん」
明日仕事ということも忘れて、私は泣きに泣きまくったのでした。
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