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翌日、朝から赤羽さんはぶつぶつと文句を言っていた。
だけどその容姿は昨日の夜とは打って変わり、シルバーフレームのメガネをかけ、誰が見てもまじめでおとなしそうな生徒だ。
「あの店、二度と行けない。なんであのバーテンダー、貴島先生の友達なの?」
わたしたちは人目を避けて、中庭に来ていた。赤羽さんは朝ごはん代わりだと言って、ここに来る途中に自販機で買ったパックのグレープフルーツジュースを飲んでいる。
「今度からどうやって会えばいいんだろう。頻繁にごはんに誘うのも迷惑だろうし、だからせめてお客としてならって思ったんだけど」
「お店の前で出勤してくるのを待ったら?」
「それだと、ゆっくり会えないんだもん」
「でも赤羽さんほどのきれいな人に言い寄られても、その気にならないなんて、どれだけ理想が高いんだろう」
「やっぱりそう思うよねー……っていうのは冗談で。たぶん、恋愛よりも絵を描くことに夢中なんだと思う」
壁に寄りかかっていた赤羽さんが、ため息とともに空を仰いだ。
「見ているだけでいいのにな。デートとかそんなことまで今は望まないから、会いたいなあ」
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