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「どうしたんだよ? すごい汗なんだけど」
「こ、これは暑いからで!」
なんて言ってみても動揺しているのは、きっとバレているはず。フラれたのはわたし。朔夜くんはきっと余裕いっぱいの顔で、わたしを見下ろしているんだろう。
「やっぱりいい」
「え?」
「送ってもらわなくていい。ひとりで帰る」
一刻も早く、朔夜くんの前から消えたかった。
まだ好きだから。わたしの気持ちに気づいた朔夜くんにまた「重い」と言われたら、今度こそ立ち直れない。
だったらもう近づかない。これ以上、嫌われるのは怖い。
わたしは朔夜くんの静止を振りきろうと走り出す。だけど……。
「天音!」
名前を呼ばれ、思わず立ち止まってしまった。
「ずるいよ、鳴海くん」
「なにが?」
「こんなときに名前で呼ぶなんて、ずるい。学校では『橘』だったじゃない」
「前もそうだっただろう。名前で呼ぶのは学校以外だけだったよ」
「そうだけど。だからこそだよ。わたしたち、もう別れたんだし、名前で呼ぶ理由はないでしょう」
「そっか、わかった」
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