第6章 曖昧なままで

29/30
1086人が本棚に入れています
本棚に追加
/257ページ
 だけど恥ずかしいよ。なんてことのない会話だけど、親しい人に聞かれるのってかなり照れる。  顔に熱が集まってきて、思わず手でおおって隠した。  それを見たヨウくんが大笑いして、わたしの手をつかんで、引きはがそうとする 「ちょっ、やめてってば!」 「照れなくてもいいのに。俺が言いたかったのは、ふたりはお似合いだから、天音はもっと自信を持っていいんだよってこと」 「ほんと?」 「うん。だから、ちゃんと顔を見せて」  顔から手を離すと、ヨウくんが目尻を下げてにっこりと微笑んだ。 「天音に本当の笑顔を取り戻させることができるのは、きっと鳴海くんなんだろうな。ふたりを見ていて、そう思ったよ」  その顔は教師とは思えないほど無防備で穏やかだ。  だけど、こんな表情が本来のヨウくんだ。子どもの頃からの見慣れた顔に、わたしも自然と気を許していった。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!