第6章 曖昧なままで

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「ゆっくりでいんだよ。鳴海くんもきっとそう思っているんじゃないかな」 「うん、ありがとう」  ヨウくんに言われると、すごく安心できる。がんばれる気もしてきた。  焦らなくてもいいのかな。同じクラスだし、席も今のところは隣同士だし、少しずつ……。  そう、少しずつ取り戻せばいいんだ。あの頃のような関係に戻れるように、ゆっくりと。  夕飯の買い物客でにぎわいを見せているあかね通り商店街のなかを、ヨウくんは帰っていった。  途中、おそうざいも売っているお肉屋さんのおばちゃんに、「先生、いかがですか?」と声をかけられていたけれど、立ち止まって「すみません」と頭を下げ、再び歩き出した。  ヨウくんはこの商店街ではすっかり顔なじみだ。  早いなあ。ヨウくんと知り合ってもう6年になるのか。  出会ったときは、ヨウくんは大学1年で、わたしは小学4年だった。それが今では教師と生徒だもんなあ。  昔のことを思い出しながら、わたしはしみじみとした気分になった。
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