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そのとき、教室のうしろから人の波をかき分けて、朔夜くんが黒板のほうに向かってくるのが見えた。
状況を飲み込めていないらしい朔夜くんは、慎重にまわりの様子をうかがいながら、わたしのもとに歩み寄ってくる。
こんなところを見られたくなかった。
でもわたしを助けようとしてくれるその姿に、うれしさがこみ上げてきて、涙も出そうになった。
「あたしたちは別になにもしてないけど……。ねえ?」
馬渕さんがほかのふたりに同意を求めると、ふたりは大きくうなずいた。でも朔夜くんはまったく信じていないようだった。
「どう見たって、橘をみんなで責めてる構図だろう? こいつがなにかしたのかよ?」
「納得いかないことがあったから、学級委員長の橘さんに意見を聞いただけ」
馬渕さんが強気で主張する。
「意見を聞く態度とは思えないんだけど。そもそも意見ってなに?」
「鳴海くんと赤羽さんのこと。警察に補導されたのに、クラスのみんなになんの説明もないのが納得できないの」
「ああ、ラブホに行ったのか行ってないかってやつか。それなら行ってないけど」
馬渕さんがグイグイ切り込んでくるのに、朔夜くんは余裕の態度。なんだそんなことかという感じで、サバサバと答えていた。
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