第3章 彼女の事情

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七瀬(ななせ)さーん!」 「加世ちゃん!?」  赤羽さんが声をかけると、そのバーテンダーさんがすっとんきょうな声をあげた。  赤羽さんのことを下の名前で呼んでいるんだ。だけど、それほど深い仲ではないと感じる。  七瀬さんと呼ばれた人は、それほど歓迎している感じではなく、むしろちょっと困っているようだったから。 「七瀬さんに会いにきちゃった」 「まさかほんとに来るとは思ってなかったよ。おうちの人は大丈夫なの?」 「うちの親なら平気。言ったでしょう。スナックをやってるって」 「そういう問題じゃないよ」  七瀬さんは心配そうな顔をした。  見た目とは違い、人あたりがいいし、常識的なことを言っている。もしかしてまじめな人なのかな。 「そっちの子は?」  七瀬さんがわたしに視線を移す。 「同級生なの」 「じゃあ親御さん、心配してるんじゃない?」 「この子の親も夜働いているから大丈夫。でも水商売じゃないよ、ねっ?」  赤羽さんがわたしのほうを向いて、続きは自分でと促す。
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