第3章 彼女の事情

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 意外だった。夜の世界なのに、そういうところは厳しいんだ。  じゃあ、ピアスホールもそうなのかな。仕事じゃないときはピアスをしているかも。 「七瀬」  また、クールなバーテンダーさんの声がした。「わかりました」と七瀬さんは返事をすると、もう一度赤羽さんのほうを向いた。 「オーダーが入ったから、また後で。ごめんね、加世ちゃん」 「ううん、ぜんぜん。わたしのことは気にしないで仕事に戻って」  その後は七瀬さんの仕事のじゃまにならないよう、カウンターから見ているだけにした。  その間、赤羽さんから彼とのことを根掘り葉掘り聞き出す。 「百貨店で開催されてた現代アートの個展で知り合ったの」 「個展って写真とか絵画の?」  そういえば赤羽さんは美術部だった。もともと芸術に興味があるのだろう。 「うん。七瀬さんの絵にひと目ぼれしちゃって。七瀬さんはファンタジーの世界を描く画家なの」  プロの画家らしい。  けれどそれだけでは食べていけず、駅前のコンビニとこの店でアルバイトをしているそうだ。
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